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帰る場所

更新日:4月20日




静かすぎる日々に

ため息が ひとつ落ちた


風が庭を通っても

草はただ 眠ったまま


鮮やかな景色を

遠く遠くへ 探しに出た日々


にぎやかで 価値あるものを

追いかけていた あの頃


けれど今

火のあたたかさと

茶の香りに包まれる夕暮れ


長く伸びる影のそばで

読みかけの本に ほこりが積もる


もう 問いかけは必要ない

何が正しいのか

何が楽しいのか


このひと部屋に射す 光と影

静かな暮らし

それこそが

いのちの ふるさと





歸處 かえるばしょ

曾嗟日靜無聲響 かつて なげきぬ ひのしずかにして おと なきを

空庭風過草猶眠 むなしき にわに かぜ すぐれども くさ なお ねむる

少年心急尋千景 しょうねんの こころ いそぎて ちのけいを たずぬ

老後方知此處真 ろうごに いたりて まさに しる このところ こそ まことなり

火煖茶香浮薄暮 ひは あたたかく ちゃのか はくぼに うかび

影長書冷倚門塵 かげは ながく ふみは ひややかに もんの ちりに もたれり

不問塵世何為樂 じんせの なにをか なして たのしみとせんと とわず

一室光陰即故鄉 いっしつの こういん すなわち こきょうなり


帰る場所

静かすぎる日々に、かつてはため息をついた

風が通りすぎても、庭の草は眠っていたまま

若き日は、にぎやかな千の景色を求めたけれど

今ようやくわかった、この場所こそが真実だったと

夕暮れに、火と茶の香りが静かに浮かぶ

長く伸びる影のそばで、読みかけの本にほこりが積もる

もう、「何が楽しいのか」を問わない

このひと部屋の光陰こそが、わたしのふるさとだった



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